今回は内装工事のお見積に関する疑問を紹介します。
内装工事を検討しているとお見積には「新規クロス貼り」「新規カーペット張り」「床材張替え」という言葉が並びます。一見同じように材料をはる作業ですが、「貼る」と「張る」どちらの漢字を使えばよいか疑問に思ったことはありませんか。
「貼る」と「張る」に違いはあるのでしょうか。「貼る」と「張る」の違いについて、言葉の意味、内装資材の変遷、日本の木造住宅に用いられる構法などから解説したいと思います。
内装工事を検討しているとお見積には「新規クロス貼り」「新規カーペット張り」「床材張替え」という言葉が並びます。一見同じように材料をはる作業ですが、「貼る」と「張る」どちらの漢字を使えばよいか疑問に思ったことはありませんか。
「貼る」と「張る」に違いはあるのでしょうか。「貼る」と「張る」の違いについて、言葉の意味、内装資材の変遷、日本の木造住宅に用いられる構法などから解説したいと思います。
CONTENTS
広辞苑から考える「貼る」と「張る」の違い
まずは広辞苑や辞典を参照し考えていきます。広辞苑で「張る」の項目を索引すると「いっぱいに押し広がる意。」「事物を力いっぱい押し広げる。」とあります。
力を加え何かを広げのばす、ぴんと一面に覆う時に「張る」という漢字を用いると考えられます。
※出典:「張る」.新村出編.『広辞苑』第7版.岩波書店.2018,p.2401
一方、「貼る」を広辞苑で引くと「張る」を参照するよう指示があり、貼るという言葉単独での掲載はありませんでした。「張る」の項目を読み進めると、上記で記した「いっぱいに押し広がる意。」「事物を力いっぱい押し広げる。」のほかに、「(「貼る」とも書く)ひらたくのばして、糊・釘などで他の物につける。」とあります。
※出典:「張る」.新村出編.『広辞苑』第7版.岩波書店.2018,p.2401
糊や釘などを用い、のばしたものを他の物につける場合に「貼る」という漢字を用いることが考えられます。また『常用漢字コアイメージ辞典』で「張」と「貼」の漢字を参照すると、それぞれの漢字に下記のイメージが含まれていることが分かります。
張 ぴんとはり渡すことを古代漢語で(一部略)「張」と表記する。「張」は弓の弦を長く伸ばしてはり渡す様子を暗示させる。
意味 「長く伸びる」というイメージは「大きく広がる、開く、展開する」というイメージにもなる。
※出典:「張」.加納善光著.『常用漢字コアイメージ辞典』.中央公論新社.2011,p.767
貼 「占」は「一つの所に定着する」というイメージがあり、「くっつく」というイメージに展開する。
意味 六朝時代に質のかた(抵当)の意味でつかわれているのが最初。後に平面に薄くはりつける意味になった。
※出典:「貼」.加納善光著.『常用漢字コアイメージ辞典』.中央公論新社.2011,p.772
実際オフィスの内装工事の現場では、壁紙の施工について「張る」と「貼る」の漢字が両方使用されています。しかし言葉の意味から検討すると、壁紙も糊で貼り付けており、またはりつけたときの薄さに着目するのであれば、『広辞苑』と『常用漢字コアイメージ辞典』を参考に「新規クロス貼り」「新規壁紙貼り」という表現がふさわしいと考えます。
では、床材の「タイルカーペット」や最近流行の「塩ビタイル」も床材用のボンド・糊で施工するため「貼る」という漢字がふさわしいのでしょうか。実際、オフィスの内装工事の弦まではカーペットなど床材でも「張る」という漢字が用いられているケースもあります。
「張る」と「貼る」が両方つかわれている理由について、
1.内装材の施工方法の変遷
2.日本の木造建築の構法
3.「貼」常用漢字の登録
という3点から、床材に使用する「貼る」と「張る」の違いについて検討してみます。
力を加え何かを広げのばす、ぴんと一面に覆う時に「張る」という漢字を用いると考えられます。
※出典:「張る」.新村出編.『広辞苑』第7版.岩波書店.2018,p.2401
一方、「貼る」を広辞苑で引くと「張る」を参照するよう指示があり、貼るという言葉単独での掲載はありませんでした。「張る」の項目を読み進めると、上記で記した「いっぱいに押し広がる意。」「事物を力いっぱい押し広げる。」のほかに、「(「貼る」とも書く)ひらたくのばして、糊・釘などで他の物につける。」とあります。
※出典:「張る」.新村出編.『広辞苑』第7版.岩波書店.2018,p.2401
糊や釘などを用い、のばしたものを他の物につける場合に「貼る」という漢字を用いることが考えられます。また『常用漢字コアイメージ辞典』で「張」と「貼」の漢字を参照すると、それぞれの漢字に下記のイメージが含まれていることが分かります。
張 ぴんとはり渡すことを古代漢語で(一部略)「張」と表記する。「張」は弓の弦を長く伸ばしてはり渡す様子を暗示させる。
意味 「長く伸びる」というイメージは「大きく広がる、開く、展開する」というイメージにもなる。
※出典:「張」.加納善光著.『常用漢字コアイメージ辞典』.中央公論新社.2011,p.767
貼 「占」は「一つの所に定着する」というイメージがあり、「くっつく」というイメージに展開する。
意味 六朝時代に質のかた(抵当)の意味でつかわれているのが最初。後に平面に薄くはりつける意味になった。
※出典:「貼」.加納善光著.『常用漢字コアイメージ辞典』.中央公論新社.2011,p.772
実際オフィスの内装工事の現場では、壁紙の施工について「張る」と「貼る」の漢字が両方使用されています。しかし言葉の意味から検討すると、壁紙も糊で貼り付けており、またはりつけたときの薄さに着目するのであれば、『広辞苑』と『常用漢字コアイメージ辞典』を参考に「新規クロス貼り」「新規壁紙貼り」という表現がふさわしいと考えます。
では、床材の「タイルカーペット」や最近流行の「塩ビタイル」も床材用のボンド・糊で施工するため「貼る」という漢字がふさわしいのでしょうか。実際、オフィスの内装工事の弦まではカーペットなど床材でも「張る」という漢字が用いられているケースもあります。
「張る」と「貼る」が両方つかわれている理由について、
1.内装材の施工方法の変遷
2.日本の木造建築の構法
3.「貼」常用漢字の登録
という3点から、床材に使用する「貼る」と「張る」の違いについて検討してみます。
床材の施工方法の変遷
現在のオフィスで一般的に使用されているタイルカーペットや塩ビタイルは、一定の規格のサイズにカットされ、一部汚れてしまった場合でも、一部だけ張り替えができるメンテナンスがしやすい仕様です。
タイルカーペットが普及する以前は、一枚のカーペットを部屋に置き敷く、もしくはグリッパー工法という方法で部屋の四隅に針山を設置し、ロール物の継ぎ目が少ないカーペットを針山に引っ掛ける方法で施工していました。つまり糊を用いた施工ではなく置き敷き、もしくは、ロール状の大きなカーペットを引っ張り針山に引っ掛けるという方法でした。グリッパー工法で施工されたカーペットは、ぴんと力を入れてのばし、カーペットで床一面をおおうため床材に対して「張る」という漢字が用いられていたといえるのではないでしょうか。グリッパー工法のカーペットは一部が汚れてしまった場合でも一部のみの張り替えができませんでした。
現在は、一部だけ張り替えができるメンテナンスがしやすいタイルカーペットや塩ビタイルという床材にオフィスの床材が主流となりました。タイルカーペットや塩ビタイルも床材用のボンド・糊で施工するため、糊を使って密着させていることに着目するのであれば「貼る」という漢字がふさわしいと考えます。糊を使用しない施工方法での床材には「張る」の漢字を使用し、また糊を用いるような、タイルカーペットや塩ビタイル工事の場合でも、元々の床材の施工方法の名残から「張る」という漢字が使われるのではないかと考えます。
タイルカーペットが普及する以前は、一枚のカーペットを部屋に置き敷く、もしくはグリッパー工法という方法で部屋の四隅に針山を設置し、ロール物の継ぎ目が少ないカーペットを針山に引っ掛ける方法で施工していました。つまり糊を用いた施工ではなく置き敷き、もしくは、ロール状の大きなカーペットを引っ張り針山に引っ掛けるという方法でした。グリッパー工法で施工されたカーペットは、ぴんと力を入れてのばし、カーペットで床一面をおおうため床材に対して「張る」という漢字が用いられていたといえるのではないでしょうか。グリッパー工法のカーペットは一部が汚れてしまった場合でも一部のみの張り替えができませんでした。
現在は、一部だけ張り替えができるメンテナンスがしやすいタイルカーペットや塩ビタイルという床材にオフィスの床材が主流となりました。タイルカーペットや塩ビタイルも床材用のボンド・糊で施工するため、糊を使って密着させていることに着目するのであれば「貼る」という漢字がふさわしいと考えます。糊を使用しない施工方法での床材には「張る」の漢字を使用し、また糊を用いるような、タイルカーペットや塩ビタイル工事の場合でも、元々の床材の施工方法の名残から「張る」という漢字が使われるのではないかと考えます。
日本の木造建築の構法
内装材の施工方法の変遷から「貼る」と「張る」の使い分けを検討しましたが、そもそもカーペットなどの床材を施工するときになぜ「はる」と表現するのでしょうか。床材については、「張る」ではなく「敷く」という表現でもふさわしいのではと考えますが、内装工事のお見積を確認すると「敷く」ではなく、「フローリング張り替え」「カーペット張替え」「カーペット貼替え」と表現しています。住宅の建築構法から「貼る」と「張る」の使用方法の違いについて検討したいと思います。
日本の住宅建築に用いられる構法では、住宅建築の床の基礎などの上に「大引」という木材を置き、その「大引」の上に「根太」という木材を大引きに直交させ上にのせます。この根太は大引きの上にはりわたして施工していきます。根太を設置することを「根太を張る」と表現します。弓の弦をぴんとはり渡すイメージと同様に、根太もはり渡されていることから「張る」と表現していると言えます。この根太の上にフローリングなどの床材を施工します。(根太の上に更に板を一面に張り、その上にフローリングをのせる施工方法もあります)。つまり根太の上にフローリングなどの床材をぴったりと貼り付けるのではなく、根太の上にさらにフローリングという木材を張り渡して施工することから、床材を施工するときに「はる」と表現しているのではないかと言えます。
住宅建築で用いられていた構法から、床材の施工を指す表現として「張る」が用いられ、フローリングの施工だけではなく、タイルカーペットや塩ビタイルなどの床材に対してもはり渡すことから「張る」という漢字が慣習的に用いられてきたのではないかと考えます。
日本の住宅建築に用いられる構法では、住宅建築の床の基礎などの上に「大引」という木材を置き、その「大引」の上に「根太」という木材を大引きに直交させ上にのせます。この根太は大引きの上にはりわたして施工していきます。根太を設置することを「根太を張る」と表現します。弓の弦をぴんとはり渡すイメージと同様に、根太もはり渡されていることから「張る」と表現していると言えます。この根太の上にフローリングなどの床材を施工します。(根太の上に更に板を一面に張り、その上にフローリングをのせる施工方法もあります)。つまり根太の上にフローリングなどの床材をぴったりと貼り付けるのではなく、根太の上にさらにフローリングという木材を張り渡して施工することから、床材を施工するときに「はる」と表現しているのではないかと言えます。
住宅建築で用いられていた構法から、床材の施工を指す表現として「張る」が用いられ、フローリングの施工だけではなく、タイルカーペットや塩ビタイルなどの床材に対してもはり渡すことから「張る」という漢字が慣習的に用いられてきたのではないかと考えます。
「貼」常用漢字の登録
次に常用漢字の登録の経緯から「貼る」と「張る」の漢字の使い分けについて検討します。
2010年に漢字の「貼」が常用漢字に登録されました。先ほど2018年刊行の広辞苑を参照しましたが、2008年に刊行された広辞苑第6版には「貼る」の単独での掲載はもちろん、第7版にはあった「貼る」への参照誘導もありませんでした。 参考:「張る」. 新村出編. 『広辞苑』第6版. 岩波書店. 2008, p.2305
常用漢字として登録されていないからと言い、実際の建築現場で使われていなかったわけではありませんが、「貼」が常用漢字として登録されたことが一つのきっかけとして「張る」という漢字で元々表記されていた内装の工事のうち、糊付けなどで固定する工事を限定的に対して「貼る」という漢字を用いるようになったとも考えられます。
床材については、床材の施工方法や日本の木造住宅の構法の特徴から「張る」という漢字を用いて表していた作業についても、製品の変化と「貼」の漢字の常用漢字登録により、糊付けなどで固定する工事を限定的に対して「貼る」という漢字を用いるようになった人もいると考えます。
以上のことから、壁紙・シートなど糊などで接着することを強調したい場合は「貼る」を用いる方がふさわしいと言えます。床材については木造建築での床材の施工方法や、内装資材の施工方法から「張る」を用いており、現在もタイルカーペットなどの内装材に対しても「張る」と表現する名残がありますが、製品の施工方法が糊付けを主とする施工方法へと変化したことや「貼」の常用漢字への登録などもあり、床材に対しても「貼る」を使用することになったのではないかと考えます。
2010年に漢字の「貼」が常用漢字に登録されました。先ほど2018年刊行の広辞苑を参照しましたが、2008年に刊行された広辞苑第6版には「貼る」の単独での掲載はもちろん、第7版にはあった「貼る」への参照誘導もありませんでした。 参考:「張る」. 新村出編. 『広辞苑』第6版. 岩波書店. 2008, p.2305
常用漢字として登録されていないからと言い、実際の建築現場で使われていなかったわけではありませんが、「貼」が常用漢字として登録されたことが一つのきっかけとして「張る」という漢字で元々表記されていた内装の工事のうち、糊付けなどで固定する工事を限定的に対して「貼る」という漢字を用いるようになったとも考えられます。
床材については、床材の施工方法や日本の木造住宅の構法の特徴から「張る」という漢字を用いて表していた作業についても、製品の変化と「貼」の漢字の常用漢字登録により、糊付けなどで固定する工事を限定的に対して「貼る」という漢字を用いるようになった人もいると考えます。
以上のことから、壁紙・シートなど糊などで接着することを強調したい場合は「貼る」を用いる方がふさわしいと言えます。床材については木造建築での床材の施工方法や、内装資材の施工方法から「張る」を用いており、現在もタイルカーペットなどの内装材に対しても「張る」と表現する名残がありますが、製品の施工方法が糊付けを主とする施工方法へと変化したことや「貼」の常用漢字への登録などもあり、床材に対しても「貼る」を使用することになったのではないかと考えます。
まとめ
今回のコラムで「貼る」と「張る」の違いについて明確な基準を示そうと試みましたが、実際の内装工事の現場でも「貼る」と「張る」が併用されているように、施工方法の変遷、慣習などが混ざり合い、明確な基準がないまま「貼る」と「張る」が使われていると考えます。
1つ、どちらの漢字を用いるか悩んだ場合には「糊や釘などを用い他の物につける場合」に貼を用いる方がふさわしいといえます。(例)壁にクロス・壁紙を貼る・新規シートを貼る
床材に関しては、タイルカーペットや塩ビタイルも床材用のボンド・糊で施工するため、糊を使って密着させていることに着目するのであれば「貼る」という漢字がふさわしいと考えますが、「張る」も誤りではなく、元々の施工方法に着目して床材をとらえている表現と言えるのではないでしょうか。
内装工事のお見積を取得したときに、壁紙や床材の工事作業についてどの漢字を用いているかを着目していただくと、その内装工事業者が、工事内容をどのように捉えているか知るヒントになるかもしれません。
オフィス空間では、今回ご紹介した壁紙や床材などの内装工事をはじめ、オフィスの移転・開設やリニューアル工事に伴う内装工事をデザインや素材の提案から行っております。ぜひ内装工事業者をお探しならお気軽にお問い合わせください。
オフィス空間の内装・デザインサービスの詳細はコチラ
1つ、どちらの漢字を用いるか悩んだ場合には「糊や釘などを用い他の物につける場合」に貼を用いる方がふさわしいといえます。(例)壁にクロス・壁紙を貼る・新規シートを貼る
床材に関しては、タイルカーペットや塩ビタイルも床材用のボンド・糊で施工するため、糊を使って密着させていることに着目するのであれば「貼る」という漢字がふさわしいと考えますが、「張る」も誤りではなく、元々の施工方法に着目して床材をとらえている表現と言えるのではないでしょうか。
内装工事のお見積を取得したときに、壁紙や床材の工事作業についてどの漢字を用いているかを着目していただくと、その内装工事業者が、工事内容をどのように捉えているか知るヒントになるかもしれません。
オフィス空間では、今回ご紹介した壁紙や床材などの内装工事をはじめ、オフィスの移転・開設やリニューアル工事に伴う内装工事をデザインや素材の提案から行っております。ぜひ内装工事業者をお探しならお気軽にお問い合わせください。
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